この記事は生産過多がもたらす労働時間の増加の続きの内容になります。

「生産過多がもたらす~」の記事においては、過剰な生産がなぜ続けられるのか、といった側面についてお話ししました。

今回の記事においては、営業面からみた過剰な生産が許される理由をご説明致します。

 

身近な例として、郵便局の配達員が年賀状の販売でノルマを課されているのはご存知かと思います。

よく新聞などで、ノルマを達成できなくて自分でその分を購入し、売れ残った年賀状用紙はゴミ箱に捨てた、といったニュースを目にします。

まぁノルマなんで、売れる人は売れるのでしょうが、ああいうノルマの設定は、営業戦力がどのくらいだからこのくらいは売れるだろう、

という見込みで生産枚数を決めているのではなく、このくらいの売上目標を先に立てて、営業にノルマ数を分配するやり方をしているはずです。

 

そもそもノルマが達成できない人は自腹を切って残った分を買う、というのは経済システムにおいておかしなことになってます。

労働者が自分の給料から営業成績を立てるということがおかしいのです。

自社の労働者は顧客ではないのですから、労働者が自腹を切って買ったぶんの金額は売上高にはなりません。

こんなバカは経営をやっている郵便局は内部崩壊していくのは間違いありません。

 

他の過剰生産の例を、会計の面から説明します。

今でも結構な数の会社では、売れもしない数の商品を平気で市場に出すことにより、大量の返品が返ってくることを良しとしています。

当然、経理上では、売れなくても卸し先に納品伝票を切ると「売上高」が立ち、翌月以降に「営業損益」として返品の金額が反映されます。

経営者からすると、「売上高」と「営業損益」の数字がひと月ずれることで、どれだけの返品によるマイナスが見えなくなってしまいます。

(※もちろん明確に出している会社もありますが、巧妙に他の経費と勘定科目を同じにして返品額を明確にわからなく操作する会社もあります)

 

このような操作をすると、会社としては、売上高がずっと右肩上がりで続き、その割には経費も比例して増えているので利益はさほど増えません。

この会社がそこそこ売れる商品でしたらまだ「増収増益」になるのですが、既に市場で飽和状態の場合「増収減益」になります。

 

なぜこのような無駄なことがまかり通るのかと言えば、営業の成果は「売上高」が唯一の指針で、どんなに経費がかかろうとも

売上高さえ伸びていれば、それは全て営業の手柄になるからです。

ですので、営業部長もそれをよく知っているので返品がどれだけ発生しようとも、社内で生産された商品は「在庫を残さず全て卸してこい!」

という命令を言うはずです。

 

それはそうです。せっかく作った商品を在庫として取っておいても売上高には還元されない。

しかし部下の営業マンは大変です。この商品は市場で飽和状態だから卸し先に行っても受け取ってくれない、というのがわかっているからです。

でも営業部長は1円でも多く売上高を伸ばしたいので、どんなに返品が発生しようが、

納品伝票さえ切ってくれれば売上高を立てることができるので部下の営業マンにゴリ押しを薦めるのです。

 

迷惑なのが営業マンです。普段ルート営業で信頼関係を構築している卸し先に何度も頭を下げて

「今回だけはこれだけ預かってください。月が変わったらすぐ引き揚げて伝票は上手く処理しますから」

と懇願します。頭の中ではこの納品量のうち、どの程度しか売れないかが分かっているだけに切ないです。

※伝票処理は別に誤魔化す訳ではありません。この記事では話が脱線しますので詳細は割愛します

 

卸し先も何度も反発するのですが、営業マンも必死です。何とか説得して月末月始を乗り切りノルマを果たします。

毎月このようなやり取りなので、営業マンのストレスといったらものすごいことになります。

でも実際に売れるのは、10,000個納品しても売れるのはたったの2,000個の商品だったらどうしますか?

20%しか売れず80%は返品です。

「そんなのありえないよ!?」と思うでしょうが、過去私が聞いた実話です。

なんと無駄なことをしているのかは、その社外で第三者目線で観察できる我々ならすぐに気が付きます。

 

しかも、その10,000個の商品を作るために社内スタッフが遅くまで残業していたらどうなるでしょう?

残業代を含む製造コストが増大し、ますます利益率が下がってしまいます。

利益率が下がれば当然会社は儲からないので、給料も増えることはありません。

これが日本企業で社員の給料が上がらない原因です。

 

これは自社製品を作って営業が売る、というケースですが、逆の営業ケースでも言えます。

逆のケースでは、営業がクライアントから仕事の話を受けると、

十分な利益率が得られていないにもかかわらず短納期で受注してしまうような

クライアントの力に弱い受注型営業に見られます。

 

クライアントの言われるまま、短納期で案件を受注し、自社内の制作スタッフに製品の制作を丸投げします。

案件を受けた制作スタッフは、受けた時点で間に合わないので夜遅くまで残業して完成させます。

このような場合、十分な制作時間を得られておらず残業代が発生したため、案件としては受注した段階で赤字となり、

いくら営業が仕事を取ってきても利益率が上がらない、というジレンマが発生します。

こういった会社でも、利益率が上がらないので社員の給料も上がらなくなります。

 

今はこのような会社が多いです。

バブル崩壊とリーマンショックを受けた低成長時代において、

増収増益型ビジネスモデルを未だに続けている会社はこのような無駄を垂れ流しています。

これは「売上高重視」型の営業評価システムを採用している限り、

無駄な生産が会社が潰れるまで行われます。

 

ですので、会社の業務改善を行うには、このような「売上高重視」型の営業評価システムは見直し、

「利益率重視」の営業評価システムに変えることで全て丸く収まります。

営業が、これまでのようにただ仕事を数多く取ってくればボーナスの査定で評価されるというシステムは辞め、

仕事を取る前に”この案件を社内で取ってくるとしたら、どのくらいの利益率になるか”ということまで考え、

利益率が高い営業が評価されるシステムに変えていけば

社内で無駄な生産が行われることがなくなり、社内スタッフの残業も減り、利益率は高まります。

 

もしそのシステムを提案すると、営業部長はきっとこう言うでしょう。

「そんなことをすると売上が下がりますよ?」と。

売上が下がるのは経営者が一番気にするからです。

 

でも、その営業部長は会社のためを思って言っていません。

会社が本当に欲しいのは高い利益率です。

そのセリフを言う営業部長は、利益率なんて考えたことがなく部長になった人でしょう。

そんな人に営業の新規開拓なんかできる訳がありません。

 

経営者はそのような脅しに怯むことなく、社員全体のことを考え、儲からない商品(または案件)は見直し、

新たな分野を切り開いていってもらいたいものです。

 

労務管理的目線で言えば、今後日本企業がずっと「売上高至上主義」で評価制度を続けていたら

将来は明るくないでしょう。