この記事は、メーカー(製造業)のうち、返品が可能な商品を作っている会社についてのお話しです。

返品が可能な商品とは、

食料品のような商品そのものが時間とともにダメージを受ける商品以外のもの、

大量生産が可能なもの、

返品制度が可能な業界で取り扱われているものを想像してください。

ここでは一例として、書店に置かれている「本」を挙げます。

 

本来、需要と供給と価格の関係は、ケインズが表した需要供給曲線が重なる均衡点の価格が適正価格になります。

しかし、返品制度のある業界では、往々にしてこの均衡が取れておらず、どの会社も供給過多(生産過多)の状況になっております。

そのような状況になる理由は次の通りです。

 

今、日本の大半の企業の財務上の評価基準は「売上高」です。

各企業とも、この売上高をいかに伸ばすかを考えています。

(私から見ると、売上高しか考えていないように思えますが)

この売上高を伸ばすためには市場に商品を供給し、需要のある限り販売します。

供給>需要となった場合、価格を下げても利益が出る場合は価格引き下げに走り購買数を増やします。

それでも売れ残ったら商品は廃棄の運命となります。

商品が廃棄処分になれば生産コストが無駄になるので、企業は真剣に生産管理を行います。

 

ところが返品制度のある業界ではこのような経済理論が全く無視されます。

本の流通を例に出します。

出版社から出荷された本は、取次と呼ばれる中間の問屋に搬入されます。

取次では、各書店に届いた本を配布します。

書店で届けられた本が納品されると「納品伝票」が発行され、出版社から見れば「売上」がこの時点で立ちます。

書店側からみれば、本を預かった時点で出版社に対し納品額を支払います。

しかし中小零細な書店では、大量に納品された本の代金を支払う能力はありません。

そのため取次に資金援助してもらいます(簡単に言えば“ツケ”にする)。

 

納品された大量の本は、納品前に価格が決まっています。

書店のほうではこの価格を変えて販売することは許されません。

売れなかったらこの価格の通りの返品伝票を起こし、出版社に対し返金要求をしなければならないからです。

つまり、ケインズが考えた需要供給曲線の公式では、供給量が増加した場合需要は減少するので

必然的に価格は下げざるを得なくなるのですが、

返金制度のある業界では一旦市場に出回った商品については価格を変えることができず

メーカー希望価格のまま販売されることになります。

これが、雑誌のジャンプやサンデー、マガジンが「10冊まとめて1割引き」などと

小売り側で勝手に決めた金額で売られていない理由です。

 

さて、書店で売れ残った本は取次を経由して製造元の出版社に戻されます。

その時点で出版社は書店、またはツケにした取次に返品分の金額を支払います。

出版社側からお金の流通を考えると、商品を納品した時点で売上が立ち入金されるので、

その資金を元手に次の商品を作る運転資金に回せます。

そして返品による返金要求がされたら、運転資金の中から返金します。

つまり、運転資金とは、実際の売上高から捻出されるのではなく、

納品しただけで入金の権利がもらえる実際の売掛高に頼っており、

常に「売掛高>(運転資金+返金)」となるよう自転車操業をしているにすぎないのです。

※このように出版社では銀行融資を受けなくても市場から運転資金を調達しているため

 無借金経営でも会社は回すことができます。

 そのため銀行は出版社の財務状況を見ると大半の出版社では見た目上評価が高いのですが

 こういった裏事情があるため、大幅赤字になったり、銀行から融資を受けるようになると

 「売掛高<(運転資金+返金)」となり、

 いくら増刷して運転資金を得ようとしても、既に市場では供給過多になっているため

 返本分の返金も増えることになり、利益率も伸びず、

 いつかは業務が立ちゆかなくなり倒産してしまうのです。

 

このように、なぜ毎年増産が必要かがわかったところで、

供給過多(生産過多)の会社の労働者はどのようになっているかを見てみます。

生産物は毎年増えていきます。

この時、労働力(ここでは単に社員数)が変わらない場合、労働時間が増えますので、

定時で終わらない場合は残業時間に突入します。

会社としては、労働力を増やすために人を採用します。

しかし、労働力は固定費用(人件費)のため、運転資金に影響するほど労働力を増やすことができません。

仮に運転資金ギリギリの労働力に達した場合、それ以上人を増やすことはできず、

一人一人の給与(+社会保険、年金保険料)支払いと比べた場合、

残業してまで生産を増やしていかざるを得ません。

 

このようにして、ひたすら増産を続ける必要のある会社では、

そこで働く社員の残業時間は会社が潰れるまで増えていくことになるのです。

利益率が伸びないことで社員は増える残業代を当てにし、

体力が続かない場合は過労による病気を発症、最悪退社して労働力が落ち、

さらに残った社員の残業時間が増えることになります。